プロフィール 旅行記・体験記 著作集 アウトドア  

油そばとは何か

 

いま「油そば」ブームか!?

「蔵野地区を中心に静かなブーム、変なラーメン“油そば”」といった記事が、雑誌やテレビで紹介されている。秀峰のうちの近所でも、最近2件のラーメン屋がメニューに加え、店先に「油そば」あります、という貼り紙なんか掲げているている。確かに話題のメニューらしい。この「油(あぶら)そば」、平成8年頃から、東京西部を中心に流行りだし、今では都心部でも関西でもポピュラーなメニューとなっている。都内で油そばを出す店は、「あぶらー亭」「東京麺珍店本舗」などが有名だ。また、カップラーメンにもなっているそうだ。

 

どんなそばなのか

普通のラーメンと同じ器に、見たところ太めの麺と具だけが入っている。スープはなく、麺がギトギトしたラードやサラダオイルでからめてあって、具がのっている。これをグチャグチャにかき混ぜて食べる。実はしょうゆダネも入っていて、味付け自体は抵抗のないものだ。圧倒的なベトベトした食感に箸が止まるが、なんとなく旨い。これは、冷やし中華ともつけ麺とも全然違う。2、3度チャレンジすると、病みつきになってくるという。

 

元祖はどこか?

一説によるとこの「油そば」の元祖は、武蔵境にある「珍々亭」で、亜細亜大学の学生を中心に人気が出てきたという。「珍々亭」は1958年の創業らしいから、もしかしたら「油そば」も30年以上の歴史があるのかもしれない。しかし、味付けやスタイルを発案したのが、この「珍々亭」かどうかは定かではない。

 

国分寺高校生の思い出の料理

15年前、筆者は、都立国分寺高校に入学したのだった。その通学路途中(国立駅北口)にあったラーメン屋、「芳寿楼」に、メニューにはのってないが、「油そば」と注文すると作ってくれる変な麺料理があった。これは、高校の先輩から代々うけつがれている伝統の味だということで、当時の国分寺高校生の男子の大半は、口にしたことがあったようだ。

 

その「油そば」とは…

筆者は、高校入学直後に学校新聞の記者をしており、ちょうど「油そば」の特集の取材で、「芳寿楼」をおとずれ、初めてその不思議な麺料理を口にしたのだった。当時の「油そば」は、今のようにチャーシューやなるとやメンマなどという具は入ってなかった。2食くらいある大量の麺の上に、ゆでたモヤシが山盛りと、きざんだネギだけが入っていた。そこに、辛子味噌を加えたり、酢を加えたり、いくつかのバリエーションも楽しめた。値段も150円という安さだ(当時はラーメンが400円くらい)。そのわりに満腹感が強いので、食べ盛りの高校生には下校時の定番メニューとなった。ただし、女子などには、強烈にしつこい味に吐き気を催して「2度と食べたくない」と言う一派もあったが。

筆者が高校を卒業(1984年)したのと同じ頃、「芳寿楼」は引っ越してしまい、「油そば」とはそれきりだったが、その後に偶然旅先で、「油そば」のルーツに違いないものを発見した。

 

香港で「油そば」のルーツを発見!

高校卒業後の1990年、香港へ旅行に行った筆者は、何気なく入った麺粥専家(麺と粥の専門店)で、「撈麺(ローミン)」というそばを注文した。これは、細くてやたら堅い麺に、タレとラードとカキ油がからめてあり、スープはない。「どこかで食ったような気がする・・・」、ふと思いついた。これはまさしく、あのなつかしの「油そば」ではないか!香港で「油そば」のルーツを発見した喜びは大変なものだった。

 

香港の「撈麺」

この「撈麺」は、どんぶりではなく、レタスを敷いたお皿にのって出てきた。具は何も入ってない。最近流行っている「油そば」には普通のラーメンの具が入っているが、「撈麺」は、筆者のなつかしの「油そば」と同じく、具らしい具は入っていない。とすると、やはり国分寺高校生の食っていた「油そば」は、かなり元祖に近いのかも知れない。

本場の中国では、麺料理はそもそも「汁そば」と「汁なしそば」に分けられる。「汁なしそば」は、必ずしも「焼きそば」とは限らない。例えば「ジャージャー麺」(北京が本場らしい)も「汁なしそば」の範疇に入る。つまり「スープがない」のは、そんなに異常なことではない。日本の讃岐地方では、うどんに醤油だけをかけて食べる習慣もあり、駄菓子屋で100円とかで供されるおやつでもある。麺料理は、本場ほどシンプルで格安の日常食なのだ。

 

今の「油そばの」感想

つい先日、初めて、普通のラーメン店で「油そば」を食べた。感想は「うーん、おとなしい」といったところだ。15年前の「油そば」や香港の「撈麺」のような、強烈なベトベト感もないし、“油度”も薄い気がした。要は、「もう麺なんか見たくもない!」という食後感(これが醍醐味なのに)が、全然ないのだ。しかも、高い。ここで最後に声を大にして言いたい、

具だくさんの700円もする「油そば」は邪道だ!
ベトベトの安い「油そば」を食べさせて!

 

Copyright (c) 1997-2007 Shuho All Rights Reserved