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小網代の森

  
<小網代湾の最奥部>三浦市三崎町小網代

取材日:平成10年4月10日(金)・23日(木)

小網代湾は、油壺半島のすぐ北にあり、京浜急行電鉄の終点「三崎口駅」の先の方向に切れ込んでいる湾だ。この最奥部は「小網代の森」と呼ばれ、山林に囲まれ、小川が干潟に流れ込む湿地帯になっている。地図で見ても、車で接近を図れるような道路はまったくないし、近くの車道からも、この森の様子が見える場所はない。地図上で、この水辺が気になってしょうがなかったので、歩いてでも行ってみようと思い、バイクで出動した。

地図を頼りに、なるべく近そうな農道を適当に入り、農道の行き止まりから、歩いてケモノ道を突き進む。すると、「小網代の森」をぐるりと取り囲むような遊歩道に出た。山道からは、浜辺に着く寸前まで海は見えず、波音も聞こえない。まったく雑木林の低山ハイキングそのものだ。ただ、山道の脇の落ち葉の中からカニが這い出てきたりする。南国の無人島を探検しているような気分だった。

10分ほど歩いて、水辺に着く。辺りには住居も観光施設もなく、別荘風の無人の建物が1軒あるだけで、鳥のさえずりが聞こえるほかは、まったく静まり返っている。ここが神奈川県とは信じられないくらい、のんびりできる場所だ。辺りには人っ子ひとり居なかった。

ここには、全長わずか1.2キロしかない「浦ノ川」という小川が流れ込んでいる。手前に見える水面は、これが海なのだ。背景から見れば、まるで山上湖か山里の沼という感じだ。もっとも、水深はなく、干潟と呼ぶのだろう。砂浜に立つと、トビハゼがいっせいに巣穴に逃げ込む。小魚の群れも見えたが、魚種はわからなかった。ここでは、森と干潟と海がまとまり、色々な生き物が育まれている。こういう「集水域生態系」が守られている場所というのは、今や非常に貴重だそうだ。

中でも貴重なのは、この森に生息する「アカテガニ」というカニだ。TV番組でも「アカテガニの住む谷」として紹介され、全国的に注目を集めたという。「アカテガニ」は、山の斜面に巣穴をつくり、夏の大潮になると、海へ移動してきてお腹に抱えた子ガニを放す。この森の中に1本でも道路があれば、カニは移動できなくなる。観察に訪れる人々も、くれぐれも注意して、湿原を踏み荒らすことのないよう、注意が必要なのだ。

「小網代の森」は、面積わずか100ヘクタールだが、この付近でこれだけの規模の森と豊かな生態系が残されている場所は他にない。ここに、ゴルフ場開発の話が持ち上がったのをきっかけに、「小網代の森を守る会」というボランティア団体が発足され、2ヶ月に1度、ゴミ拾いや自然観察会「観察会&クリーン」が行われている。どうりで、あたりにはゴミ一つ落ちていなかった。神奈川県も、保全に向けた方向で努力をすると表明しているという。

 

「小網代の森を守る会」
代表 仲沢イネ子
神奈川県三浦市南下浦町上宮田1528−75
TEL & FAX : 0468-89-0067
年会費\1,000(7月〜6月入会金なし)
郵便振替0026−4−21569

参考文献:「ハマ線物語 Vol.9〜特集<川と市民のネットワーク>」
(発行:鰍Q30クラブ新聞社/1996年3月/\1,500)


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